今は答えを出さなくていいです
小さな配信室
声だけの祝福
雲の上の小さな配信室で、朝と夜の声が重なります。リュミエール界の雲の上には、朝と夜の境目だけに開く小さな配信室がある。
金色の窓からは朝焼けが、青い窓からは月明かりが差しこんでいて、その真ん中に、双子の天使が並んで座っていた。
「聞こえてる? えへへ、ラフィだよ。今日はね、ちゃんと声が届く気がするの」
ラフィは小さなベルを鳴らした。りん、と鳴った音は、光の羽根になって雲の下へ落ちていく。
となりでウリエラが、白い指をそっと唇に当てた。
「ラフィ。近すぎると、びっくりされます」
「えっ、そうかな。だって、せっかく届くなら、近いほうがうれしくない?」
「近い声は、やさしく置くものです。押しつけるものではありません」
「むう。ウリエラ、今日もちょっと先生みたい」
「先生ではありません。夜の担当です」
そう言って、ウリエラは月の光をすくうように手を伸ばした。青白い光は静かにほどけ、眠れない誰かの枕元へ降りていく。
その日は、人間世界のどこかで、誰かがひとり、小さな机の前に座っていた。書きかけの手紙も、開いたままのノートも、名前のない夢も、全部が止まったままだった。
ラフィはそれを見つけると、ぱっと顔を明るくした。
「ね、あの人、まだ終わってないだけだよ。だめになったわけじゃないよね?」
「はい。止まっているものは、消えたものではありません」
「じゃあ、ラフィが朝の祝福をあげる。ちょっとだけ前に進めるやつ」
「私は、夜の祈りを置きます。進めなくても、ここに戻ってこられるように」
ラフィは雲の端から身を乗り出した。金色の髪が朝の光にほどけて、羽根の先まできらきら揺れる。
「だいじょうぶ。今日は一行だけでも、ちゃんと光るよ」
ウリエラはその後ろで、静かに目を細めた。
「疲れたら、目を閉じてもいいです。声だけは、そばに残します」
二人の声は、朝と夜の境目で、ひとつの祈りになった。
朝のぬくもりと、夜の静けさ。そのどちらも、人間世界へ静かに降りていく。
机の隅に置かれた小さな灯りのように、消えずにそばに残っていた。
ラフィが笑った。
「ね、ウリエラ。届いたかな」
ウリエラは少しだけ首をかしげた。
「届いたと思います。今、雲の下で、止まっていた手が動きました」
「ほんと? やった。じゃあ、もう一回言おう」
「はい。今度は、ふたりで」
ラフィは朝のベルを、ウリエラは月の祈りを、それぞれ胸の前で抱いた。
「あなたの今日に、ちょっとだけ光がありますように」
「あなたの夜が、少しだけ軽くなりますように」
そしてリュミエール界の小さな配信室から、双子天使のささやき声が、もう一度だけ人間世界へ降りていった。